文部省ニュースから http://www.monbu.go.jp/news/
IT(情報通信技術)革命ともいわれる急激な変動の中で、ITは世界の教育の在り方にも大きな変化をもたらしている。文部大臣の私的懇談会として国際教育協力懇談会が設置され、教育協力におけるITの位置付けや速やかに着手すべき施策について検討し、平成12年7月17日にIT革命に対応した教育協力について提言がなされた。
21世紀の初頭を見通した教育協力の在り方について、文部省関係分野を中心に施策の指針となるべき提言は年内にまとめられる。
1 国際教育協力におけるITの位置付けについて
(1)ITに関する教育協力の意義
教育協力は、開発途上国の各分野に必要な人材養成を支援するものであり、非常に重要な役割を担っている。また、IT革命の急速な展開の中で、国際的な情報格差が深刻化しているが、この問題に対処し、開発途上国におけるIT利用の条件整備を支援することは、先進国の課題となっている。
教育分野においては、ITの導入により、柔軟で効率の良い教育プログラムの構築が可能になってきており、これを適切に利用することにより、教育に大きな進歩をもたらすことができると考えられる。しかし、その際には、青少年の孤立化など、情報社会の「影」の側面を十分考慮することが必要である。
また、近年、我が国においても、国際理解教育についての取組が広まり、小中学校において、ITを利用して外国の学校などと交流を図るケースが増えている。開発途上国においてITを利用した教育が普及すれば、我が国と開発途上国の児童生徒の間に交流の機会が広がることにより、国際理解も更に深まると期待される。
現在我が国は、国内のITインフラについて、一層の整備・充実が望まれる状況にある。それと同時に、年々高まりつつある開発途上国の要請に応えてITに関する教育協力を行っていくことは、開発途上国と共に学び、進歩することを通じて、日本国内の教育・研究にも良い影響を及ぼすことができるであろう。
(2) ITに関する教育協力の対象
我が国においては、ハード面におけるITインフラの整備は米国のような情報先進国に比べて遅れている。一方、初等中等教育を中心に教育方法・教材等学習コンテンツの分野での取組が進められており、また、我が国には幅広いIT関連の産業分野が存在し、必要な人材が育成されてきている。このような状況の下で、政府による教育協力については、開発途上国のニーズを十分踏まえつつ、ソフト面を重視した対応とすることが適切であると考えられる。
具体的には、開発途上国向けの国際的な遠隔教育などに、ITを活用した教育・研修のためのプログラムやその素材を提供すること、ITの教育利用を行う開発途上国教員の研修等の支援、及び開発途上国におけるIT分野の専門技術者等の人材育成支援などが考えられる。
2 具体的方策について
(1) 開発途上国のニーズの把握と的確な支援を行うための体制の確立
IT分野における教育協力を進めるに当たっては、使用言語も含め各国あるいは地域の実情やニーズに十分に配慮しながら、効果的な実施に留意すべきである。
例えば、LLDC(後発開発途上国)においては、機材の拡充を含めた協力や、我が国で永年培われてきた教育放送のノウハウを活用してテレビやラジオを使った遠隔教育を併用することも有効であろう。このため、開発途上国のニーズを的確に把握するための国際シンポジウムを実施(IT教育国際シンポジウム)し、この分野における国際的な連携を強化することが不可欠である。また、開発途上国自らがIT教育政策を立案し、推進していくことを支援するため、教育政策アドバイザーを、開発途上国の要望に応じて派遣(教育政策アドバイザー派遣)することも有効である。
また、IT関連の教育協力を円滑に進めるためには、国内関係機関の連携・協力体制を構築していくことが重要である。
なお、IT分野に限らず、開発途上国の実情に応じたきめ細かい支援を行っていくためには、教育協力全般を円滑に実施していくための新たな仕組みが必要と考えられる。その在り方については今後本懇談会で議論することとしたい。
(2)大学レベルの国際的な遠隔教育に関する協力の推進
将来的には各種の技術の進歩により、従来型のインフラが未整備な地域においても遠隔学習が可能となり、開発途上国にいながらにして世界中の遠隔高等教育プログラムにアクセスし、単位や学位の取得が可能になるものと予想される。留学についても、開発途上国の留学希望者が、留学予定先大学などの単位の一部又は全部を、母国において遠隔教育で修得することにより、実際の留学期間を短縮し、先進国で生活する経済的負担を減らすことが可能になると予想され、このような、いわば「インターネット留学」とでもいうべき学修が普及すると考えられる。
既に諸外国の一部の大学では、インターネットなどにより、国際的な遠隔教育を始めており、今後、各国の大学により、国際的な自由競争が展開されていくものと考えられる。我が国の高等教育機関がITを活用した国際的な遠隔教育に参入することは、開発途上国への知的支援となるだけでなく、我が国の高等教育が、国際的な魅力と競争力を備えたものに発展していく契機にもなると考えられる。
その際、我が国の遠隔教育プログラムにおける使用言語は、教育内容や学習者のニーズに応じ、日本語又は英語のいずれかを基本とすることとなろうが、必要に応じて現地の言語による補助教材を使用することなども考えられる。
当面の方策として、我が国としても、既存のインフラを活用しつつ、政府開発援助としての遠隔教育・研修にITを活用するための調査研究を行う。その中で、放送大学をはじめ関係省庁・機関等との連携により、日本語教育を含む遠隔教育・研修プログラムの研究開発を行う。また、メディア教育開発センターにおいて、我が国の大学教員が国際的な遠隔教育のためのインターネット教材を容易に制作できるシステムを開発 (国際遠隔教育プログラム等)することも期待される。加えて、海外における留学予備教育の一部を我が国の大学等が遠隔教育により実施するためのプログラムや、さらに、ITを活用した留学情報の提供及び留学生の入学選考の研究・開発を推進(日本留学支援)することも有意義である。
さらに、現在、大学審議会で検討されているように、インターネット等を活用した国際的な遠隔授業により、単位や学位の取得が可能になるような制度の整備が望まれる。
(3)初等中等教育教員に対するIT研修等の支援
ITへのアクセスは年々容易になりつつあるとはいえ、IT活用能力は今後「読み書き」に匹敵する重要度を持つようになるとも言われており、開発途上国の発展を支援する上で、我が国及び海外における初等中等教育教員への研修支援は非常に重要な課題である。
当面の方策としては、開発途上国の、ITの教育利用に関して指導的立場にある初等中等教育教員を対象に研修を実施 (我が国での初等中等教育教員研修)することや、ユネスコ等を通じ、アジア地域におけるITの教育利用に関する研修計画を策定し、開発途上国において、ITについて素養のある初等中等教育教員を参加対象とするモデルプログラムを我が国が支援(海外での初等中等教育教員研修)することが望まれる。
このほか、インターネットを活用して識字教育に関する素材を提供し、各開発途上国の言語による識字教育プログラムの作成支援を行うことや、高等教育と同様に我が国の初等中等教育教員によるIT教材制作を支援し、優れた教材について翻訳、提供等を行うことも有益な教育協力となるものと考えられる。
(4)IT分野の専門技術者等の人材育成支援
現在、開発途上国においては、今後の情報社会を支えていくために必要な、実用的な知識・技術を身につけた人材が、幅広い分野において求められている。その中で、例えば、CAD(コンピュータを使った設計、デザイン)など我が国が比較優位にある分野での人材育成を行うことが有効と考えられる。
当面、IT分野の人材育成のための専門学校への新たな留学プログラムについての検討(専門技術者研修留学プログラム)が望まれる。