Kurume・Tosu Internet Conference

「The Journal of Internet」 Volume6,2001 || H O M E || || 2 || 3 || 4 || 5 || 6 || 7 || 8 || 9 || 10 || 11

 

「久留米市のIT戦略」
久留米市 情報化推進担当部長

橋本 政孝
 

「今後5年以内に世界最先端のIT国家となることをめざす」として、e-JAPAN戦略が出された。 産業経済的視点からみると遅きに失した感は否めないが、国民生活の視点から見ると、「インターネット」が市民権を得た今日、誰でもがその恩恵を享受できる環境づくりを命題として、真に役立つアプリケーションサービスを創り上げていくことの意義は大きい。
今やインターネット利用者は国民の3人に1人、15歳から79才の年齢層ではおおむね2人に1人、5年後には9割になるという推計も出ている。 こうなると生活行動様式や経済活動様式も大きく変容することは疑いようもなく、都市づくりにおいてもITを受身で捉えるのではなく、戦略的に活用していくことが都市アイデンティティ確立につながる。
インターネットのポリシーは都市づくりのポリシーと同じだと思う。 インターネットにかかわり始めた頃、ある言葉に出会った。1982年に出されたJ.LipnackとJ.Stampsの「Networking」という本に書かれていた言葉である。(言うまでもないが原書を読んだわけではもちろんない)
「ネットワーキングとは、地域社会における人びとの間の分権的かつ多中心的なヨコのつながりであり、個に力点をおいた動き」というフレーズである。
都市づくりの本質を言い得た言葉であり、今日の分権型社会とインターネット普及を予感させる言葉として、1982年にこういうことを言った人がいることにも驚いたが、大げさでなく「目から鱗が落ち」た。
以来、行政職員としての私の論理基準としている。多様な人達が共存し、互いによりよい刺激を与え合いながら、個性や自由を尊重し、それぞれの相違を越えて結びつくことができるネットワーク型地域社会の実現である。まさにインターネットのポリシーである。
さて、久留米市では新総合計画を策定し、21世紀の新しい都市づくりのスタートを切った。社会経済環境が激動する中、あえて25年という長期構想としている。これは、目指すべき都市の姿をしっかり見据え、世代を受け継ぎながら一貫継続した都市づくりを進めることが、質の高い都市を造るために不可欠だからである。「ローマは一日にしてならず」されど「目指さなければローマはできず」である。
基本構想実現のための期間計画である基本計画は10年であるが、その中で戦略的に取り組む重要事業を戦略事業として掲げている。その一つに「地域統合イントラネット構築事業」がある。
あらゆる行政情報サービス、市民活動などのコミュニケーションネットワーク環境、保健・医療・福祉ネットワーク、電子商取引などなど総合的アプリケーションサービスをイントラネット上で行おうとする事業であり、そのための情報通信インフラの整備も進めることにしている。
こうした事業を戦略的に進めるため、本年4月に推進体制も整え、動き始めた。
内部情報処理部門と地域情報化推進部門の統合による情報政策課への組織変えであり、さらには市長を本部長とする久留米市高度情報化推進戦略本部(通称IT戦略推進本部)の設置である。 これはITの進展、普及が極めて速い中で、対応の遅れが将来取り返しのつかない都市間競争力格差をもたらすことをしっかりと認識し、都市づくりを進めることが持続的な都市発展に不可欠であるという考えから、IT活用を全庁横断的かつ戦略的に取り組むことにしたものである。
本年度中に総合的なIT戦略アクションプランを策定するとともに、同時併行して具体的事業にも取り組んでいくことにしている。 当面、以下の事項がテーマとなる。

@「ギガビットハイウエー」と接続する地域情報通信インフラ整備の方針
A地域産業活性化のためのIT活用
B市民生活、市民活動分野でのIT活用
CICカードを利用した多機能サービスの第1ステップとしての保健・福祉・医療分野で活用
D学校教育分野でのIT活用
E電子市役所の構築

などなどである。
電子市役所の構築は、e-Japan戦略を踏まえ、電子申請、電子調達などをにらんで進めることになるが、その時のキーデバイスとなると想定されているICカードの活用も検討していくことにしている。
ところで、行政サービスにITを取り入れていくというのは、単にこれまでの行政サービスをコンピュータネットワークで処理しようということではない。行政サービスの質を変えることであり、行政事務プロセスを変革することである。
厳しさが増す地方財政環境の中で、行政が主体性を発揮しながら多様化する市民ニーズにきめ細かに対応していくために、何をどう変えなければならないのかをしっかりと考え、その手段としてITを活用する、これが行政サービスのIT化であろう。
その一方で、Face to Faceによる人と人との触れ合いの希薄化や情報弱者などデジタルデバイド、匿名性がもたらす犯罪などIT社会がもたらす社会的「影」の部分さらにはセキュリティや個人情報保護にもしっかり目を向けていく必要がある。また全ての市民がこのIT社会の恩恵を等しく享受できるための活用能力の養成も必要である。 やるべきこと多岐にわたるが、これがIT革命と呼ばれる所以でもある。
個の活動に力点をおいて、その活動が分権的かつ多中心的に行われ連帯していくネットワーク型地域社会形成に向けて、久留米市情報化推進の第2ステージの幕が開いた。 演じるのは地域で活動するすべての企業、団体、市民である。 その中心的役割を担うインターネット協議会の活動に大いに期待したい。

       


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